3月14日(金)より開催の3人展『PLAY GROUND』に出展するリッチマン・フィニアン。幼少期の記憶や自己との対話をテーマに、粘土彫刻をもとにした独自の絵画表現を展開しています。アイデンティティの曖昧さや孤独をモチーフとする作品は、繊細な質感とクラシックな技法によって生み出され、鑑賞者の内面にも問いかけます。今回は、作家の制作背景や表現に込めた思いについて伺いました。
リッチマン・フィニアン Finian Richman
1992年 イギリス生まれ
2015年 City and Guilds of London Art School 卒業
ステートメント
私の制作スタイルは、粘土で制作した「子供の頃の自己像」の彫刻を絵に起こすことです。子供の頃の自己像というのは、期待と不安で包まれ多様 なカタチをしています。ハーフとして生まれ、二つの故郷で二分化したアイデンティティの複雑な構造や、大人になった自分と誰しもが抱える成長しない精神「インナーチャイルド」との内面的な乖離などがこの作品を形成しています。作品を通して、現代社会に影を落とす内なる孤独、不安定な自身の在り方について考察し、表現・展示を通じ人々が自分自身を投影するきっかけになればと願い制作しています。
__ 作品をつくりはじめたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
学生の頃を含めなければ2021年頃になります。自分の潜在能力が一般的ではなく、いびつな尖り方をしていることには幼少の頃から気づいていましたが、それに抗う形で人並みの何かを目指した時期がありました。その後自分の価値について深く考えたことがきっかけとなり、社会の中での居場所づくりの一環として制作活動を再始動しました。
__ アーティストを志したきっかけは何でしたか?
社会に順応することが難しいと感じながら生活を送る中で、自分の秀でている部分に焦点を当てたということに過ぎません。自分の中でアーティストとは志すものではなく、単に個性や能力、思想を表現する受け皿としての最適解だったということだと思っています。言葉によるコミュニケーションはとても大切なことですが、視覚情報による非言語コミュニケーションでこそ私はより多くを発信できると思い、活動の糧にしています。
__ 作風が確立するまでの経緯を教えてください。
私がまだ学生の頃、人物を被写体に絵を描きたいと思いました。しかし、特定の人物や写真では納得がいかず、一度自分でモデルを制作することにしました。制作したモデルを描出する過程で得られた奇妙な充足感が、自分の内面との対話となり、今も私を突き動かしています。
__ アーティストステートメントについて教えてください。
私の作品は贖罪とアイソレーション(孤独)がテーマです。ハーフとして生まれ、二つの故郷で二分化したアイデンティティの複雑な構造や、大人になった自分と誰しもが抱える成長しない精神「インナーチャイルド」との内面的な乖離などがこの作品を形成しています。
私の制作スタイルは、粘土で制作した「子供の頃の自己像」の彫刻を絵に起こすことです。幼少期の不安定で曖昧なアイデンティティは、期待と不安で包まれ多様なカタチをしています。自己を投影した粘土の彫刻を描写する過程で、思考や回想の痕跡は過剰な凹凸感で表現され、作品に生命を吹き込みます。
作品を通して、現代社会に影を落とす内なる孤独、不安定な自身の在り方について考察し、表現・展示を通じ人々が自分自身を投影するきっかけになればと願い制作しています。
__ 作品はどのように制作していますか?技法について教えてください。
芯となる材料で大まかな頭の形を作り、それに石粉粘土で肉付けしていく形で成形します。乾いたらアクリル、オイルベースの下地、油絵の具の順番で着色します。頭が完成したら、今度は下塗りしてあるキャンバスに、描き込む頭の大きさと角度、照明を決めて下絵を乗せます。その上から白一色のレイヤーで凹凸を描き込み、乾いたら頭を塗ったときと同じ絵の具で着色していきます。一般的にグリザイユ画法と言われる技法に近いですが、他の技法なども併用して完成させていきます。
__ 作品を描く際、どのようにしてインスピレーションを得て、イメージを具体化していくのか教えてください。
幼少期の思い出や、ふとした場面を回想しながら頭を成形します。回想自体に意識を傾け、指先の意識は捨てます。表情などの細かい部分はほとんどオートパイロットのような状態で素早く決まっていきます。次に、出来上がった頭を着色し絵に起こすための角度や照明を決める段階では、微妙な角度・光の調整で起こる表情の変化を神経を研ぎ澄ましてコントロールします。最後に、その頭を観察しながら絵に起こす工程です。その段階では回想していたシーンなどにどのような意義があったのか、自分の中で折り合い
をつけていく作業を並行して行っています。
__ 分離されたインナーチャイルドと向き合う中で、自分自身の変化を感じることはありますか?
変化というほどの事はないです。過去をみつめて、再解釈する。これだけです。子どもの自分は今の自分を赦してはくれません。ただ「作品に昇華できている」という事実が、自分自身の過去を肯定することに繋がっています。
_ 日英ハーフとして、2つの文化にまたがるアイデンティティが作品にどのように反映されていると思いますか?
直接的な例で言うと、西洋絵画の割とクラシックな技法で、どことなくアニメ調のモチーフを用いて制作するところが結果として自分の作品の落とし所になったということです。これは日本とイギリスでそれぞれ長い時間を過ごした結果だと思います。もっと核心の部分で言うと、やはりどちらの文化にも馴染みきれなかった帰属意識のない自分が、居場所を探すような表情として作品に反映されていると思っています。四肢もなく、無力な頭が背景のない空間に転がっているのはそういうことだという理解です。しかし作品の鑑賞者が必ずしも同じ境遇である必要はなく、孤独感をもつ人なら誰しもが共鳴する部分はあるのではないかと考えています。
_ 3人展「playground」では、どのようなコンセプトで展示プランを構成されましたか?
一つ一つの作品と鑑賞者とが静かに向き合える時間を設けられるように、シンプルで広々とした空間の使い方を心がけました。同時に、作品自体のコンセプトでもある「孤独感」も演出できればと思いポツンとした印象にまとめています。また今回は自分の作品作りの被写体である頭の彫刻も展示し、私自身のフィルターを通して完成する作品との対比をご覧いただけるようにしています。
_今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
アーティストの制作物というのは限りなく自由であり、挑戦的でもある必要があると思っています。私は右葉曲折を経て今の作品の”スタイル”にたどり着きましたが、それ自体に縛られ作品が陳腐化しないように常に真摯にインナーチャイルドと向き合って制作していきたいと考えています。制作のヒントは外部から獲得するものですが、制作の答えはいつも自分の中にしかないからです。
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リッチマン・フィニアン Finian Richman |
3月14日(金)から開催する3人展「PLAY GROUND」に出展します!
「PLAY GROUND」
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト岡村一輝、ももえ、リッチマン・フィニアンによる3人展「PLAY GROUND」を開催いたします。「PLAY GROUND」では、3名のアーティストがそれぞれの視点と手法を通じて「自分らしさ」や「自己探求」をテーマにした作品を発表します。